ぽこぽこうんぽこ

誰かチャンスをください。頑張って自分なりに小説を書いています。

雪壁

作品について
 前作を創るにあたって次はもう少し考えてみようと一週間ぐらい考えて3時間くらいで一気に書いた。
8月31日締め切りのこれまた大阪の自治体か団体かがやってたなんとかの新人賞に応募。
自信はあったけどやはり今読むと臭くて読めないし当たり前のように何の先行にも残らなかった。
そもそも提出が8月31日の23時58分というギリギリっぷり。頭の中ではできてるけれどやる気がない。
ちなみにこれ以降その年に何かを書くようなことはしていないため執筆活動一年目(年度換算)はこれで幕を遂げている。
 
 作品のテーマは「現状を脱却するには行動しかないし、行動してもそんなに何かが変わるわけではない。ただ世界は多少広がる」
仕事が本当につまらんくて、でも転職をする勇気も何もないし趣味もないし友達もいないしなんで生きてるかわからなかった夏の思い出づくりのための作品です。
読んでくれた友達(友達おるやんけ)から国語の教科書に載ってそうと言われてとてもうれしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 拝啓、誰か様へ。
 こう寒くもなってくると、ため息をつくと白く着色されてしまいより自分の不幸というか憂鬱さが目に現れるようでしんどくなりますね。
たとい生命ある限り不可欠でもある呼吸をしてるだけでもまるで延々とため息を吐いているようで尚憂鬱になり、外の寒さも相まって社会からより一層距離を置きたいと思う今日この頃です。
 些か短絡的すぎるようにも思いますが、とっても寒い季節になったので旅に出ました。
いいえ、社会から一層距離を置くために出たかのようにも思えますが残念ながらこれは出張という枠組みに入るようです。
旅行すら仕事のひとつになってしまうとは、尚世間が憎い。社会が憎い。
社会という壁の前で私はただ引き返すだけ、抗うことはできずただ見上げる、見下げられるだけの関係にあります。
 窓から見える景色は一面雪化粧がされており、ただただ延々と続く光景を見続けるのはどうも疲れたのか眠りに落ちては目覚め、また広がっている雪に飽きを覚えます。
国境の長いトンネルを抜けてもそこは雪国で、その先のトンネルを抜けても雪国です。
田舎の電車は進むのが遅く、また景色も代り映えせずと退屈を過ごすにはもってこいのスポットです。
しかし、そのスポットに向かうためにはこれまた私が抜け出そうとしているのとは逆に延々と続くこの線路を辿るのは少々退屈が過ぎませんか?
退屈を求めている人は既に今の私と同じく退屈であろうことですし、繁忙、怠惰の有無は関係ないのでは。
ということは観光協会はやはり”すろーらいふ”なんて田舎に似合わない横文字を謳い文句に、してやったり顔を浮かべている場合ではありません。
こんなところに何かを求めて訪れる人なんているわけはないし、あなたはおかえりの横断幕でもかけていればお役御免です。
 旅路の社内ですらここまでの愚痴を零させる弊社には本当に呆れを覚えます。
「経験が足りていないんじゃないの?」「もっと世界を広げて来いよ」とのありがたいお言葉をもらい隣の観光が比較的栄えている街へと向かっています。
昨今の雪国観光事業は本当に雪でも降っているように冷え切っています。
赤道近くの観光業では常夏の島なんて洒落たキャッチフレーズが与えられていますが、ここは例えるなら常冬の…。十中八九、島のほうがマシなのは言わずもがな。
バブルの遺産から栄えたかつてのスポットがゴーストタウン化に。バブル以前はたわわに実っていたであろう稲穂は既に存在しません。
実るほど首を垂れる稲穂は首晒しの刑としてバブルに殺されました。
 幕府、ではなくバブル将軍の働きのおかげで不毛の土地ができあがりました。
時代も時代、年貢を収める必要はなくなり向こうから税を差し出してくるのですからおかみも優しくなったものです。
しかし、このような状況に陥った我が町があるように、隣町だって似たようなものです。
幹となる駅から比較的近いというだけで生き残っています。
こちらの町も穴場としては名を馳せるていたものの、穴場は流行っているものがすぐそばにあってこそ映えるものであって今では穴場の穴場ということで今では光も差しません。深淵を覗くものはいないけどこちらはいつもあなたを見ていますよ。

 「お客さん、もうダメだわ。ここで今日は降りてくれる?」
 わかりました、と適当な返事をして電車から降りる。もう散々止まっていたし予測はできていたもののこんなとこで降ろされるとは。
隣町との間にある仮に名づけるとすると間町とでも…。我々の町が穴場として栄えていた頃には恐らくお零れで懐が潤っていたであろう町で私の旅は終わりを告げる。
悪態をついていた駅員の様子を見に二両編成の電車の先頭へと足を運ぶ。
 「雪の壁だよこれは、もうだめだね。明日も無理!」
 駅員が雪掻き用のシャベルどころか自分の職務まで、全てを投げだし駅舎に戻った。
中ではストーブがありご老人の井戸端会議が繰り広げられていた。
 やはり恩恵をあずかっていただけあって観光協会と色ペンで書かれた看板を掲げた窓口があり、
ゆるキャラブームに乗っておよそ5分もかかっていないであろう製作時間を感じさせるアイーダちゃんのぬいぐるみ(Mサイズ)を枕にしてよだれを垂らしている若者もいた。
この地域は過去観光ではなく宿屋として潤っただけあり住民は根付いており、また都心まで1時間となかなかの好アクセスを売りにしてこれまたなかなかの高評価を得ているらしい。
観光協会なのに不動産のパンフレットが陳列されていることからその事が伺える。ここから更に1時間離れた我が町が日の目を浴びるのはいつだろうか。
ここで一句、
「初雪を 溶かしておくれ 不動産業(字足らず)」。ああ、冬は寒いなあ。
そりゃあ新幹線が大阪から東京に着く時間で隣町のその隣ないる都心に出ているのでは我が町が日の目を浴びることはまずない、今の若者は生き急いでいるのだから。

 「お姉さん観光?ここいらじゃ見ない顔だからそうでしょ?」
 アイーダちゃんを枕にしていた青年が声をかけてきたのでそうだと答える。
退屈していたらしく、昼時だし一緒にどうかと誘われた。まさかこんなところでナンパに合ってしまうとは。
いや、私の乗ってきたのは船ではなく電車である。
 「俺、旅館で働いてんの。今時ホテルが主流なのにしかもわざわざ都心から一時間半もかけて訪れてくるんだ。物好きな奴もいるもんだ」
 この町ですらそんなもの好きしか来ないんだから我が町には誰が来るのか。先は暗い。
後をついていくと、なるほど田舎といわれているのもわかる。
住宅街が見える方向とは逆に進むと作られた雪道と程よくシャッターで閉じられた商店街があった。
 「田舎ですよねえ」
 それ以上その言葉を言わんでくれ青年。君の瞳に我が町はどう映るのか。
 
 そこを更に抜けるとさぞ物好きで集まるであろう週末は毎度毎度サスペンスが催されているであろうといった雰囲気の旅館の中の旅館があった。
どうやら私はここに泊まるらしい。どうやら私はここで地元の名物料理を食らうことになるらしい。どうやら私はここでゆけむり殺人事件に巻き込まれるらしい。
 「ドラマのロケ地にもなったんですよ。雰囲気だけはあります」
 チェックインを済ませ旅館の玄関に入ってすぐの待合スペースの椅子に腰を下ろす。
 「どこからきたのー?」
 若女将と呼ぶには若すぎる女児が私に話しかけてくる。
私はどこから来たのだろうか。私はどこへ行くのだろうか。
そんなことを考えていたら俯いてしまい少女の出す難問には手も足も出ず、ストーブから鳴るチッチッという音を答えにして後はだんまりを決め込んでしまった。
 「お姉さん、お部屋の準備ができたんで。ミライちゃん案内手伝ってくれる?」
 「てつだうー」
 若若女将は私の手をとり部屋までエスコートしてくれた。
 「ありがとう」
 私が頭を下げると、いえいえーと満面の微笑みでこちらに笑いかけてくる。
幸せな人間を見ているとどうにも私の元気が吸い取られるようで。
私もまだまだ若いはずなのだがこの子から見た私を想像してしまい辟易としてしまうが、笑顔にはいつでも参ってしまう。

 次は部屋の椅子に腰を下ろす。外はやはり辺り一面が雪で覆われていたがいつもの風景ではないからか、旅館という空間が演出を利かせているのか、気分は不思議と少し明るくはなった。
 「そういえば、お姉さんはどこから来たの?」
 「隣町、都会とは反対の隣町」
 「それはご苦労さんだ。雪壁ができちゃったからね。ツイてないね。まあ、俺はお客さん拾ってこれたからツイてるけどね」
 「ホントだね」
 フフフと笑いあう。若い異性どころか人と話をしたのはいつぶりだろうか。
旅先なのにも関わらず、はたまた我が町の事を思い出さなくてはならない。
人はおらず。無論観光客もおらず。変わらない町を変えるためにと。
この町をそんな状況に追いやった張本人たる老人に言われて就職したはいいが私にどうしろと。
現にこの町にすら負けている。
この町に住む青年はこの町の印象を一言で言い表した。「田舎ですよね」かつては田舎ではなかった。
穴場スポットとして名を馳せていたらしい。
だからなんだというのだ、ここは田舎で我々はさらにその先の田舎で人々を招こうを合言葉にアクビを吐いている。
私のせいじゃないのに。冬場は乾燥する。
涙腺からは何も排出されず、乾いた目元を潤すものはなく…
ただただ不毛の地と化していたのは我が町だけでなく自分も同じだったことに気づく。

 旅先の椅子はフカフカで、横では青年がせっせと部屋に荷物を運び、飯の用意をしていた。外には雪が積もっている。
 「隣町じゃあ、地元の郷土料理も何もありませんねえ」
 「まあ、一人暮らしなんでしっかりとしたモノを食べるのは久々です。それに地元の人は別に郷土料理を毎日食べるかっていうとそういうもんではないですしね」
 青年はそうですねと笑った。
 「ずっと地元に住んでおられるんですね。私は関西の人間です。最初出会ったときに話しましたが私もモノ好きな連中の一人だったんですがね」
 青年は自分のことを話し始める。地元に籠っていただけあり、外部の情報に触れる機会がなかっただけあり彼の話はとても興味深かった。
 「そんで、ここであの雪壁に出会いましてね。たまったもんじゃないです。
でもおかげでこの旅館見つけて、今ではずっとここで働いてます。同じような人が良く来るんで、毎回この話をするんです。
仲居さんたちは活気づいてますけど。俺みたいなのが来てるだけなんですよ。そんで雪壁がなんとかなるとみんなどっか行っちゃう」
 私はずっと隣町にいるからね。とオチをつけたところで彼は風呂の説明を済ませ部屋を後にした。貸し切り風呂かと思いきや幾人か人影が見える。
なるほど彼の言った通りあの雪壁の効果は少なからずあるらしい。
浴室にこだまする別の客の話声を聴いて、外に振り続ける雪を見て、湯に浸かる。
真っ暗な夜空と月に照らされ輝いている雪のコントラストは美しく輝いて見え、また私の心の雪をも溶かしてくれるには熱すぎる程の湯温度であった。

 部屋に戻ってもやはり雪を見ていた。身も心も十分すぎる程に暖かく、雪は降れどもすぐに溶けていった。
青年が部屋に再度入ってきて私に言う。
 「お姉さんは他のお客とは違うね。こんなに笑顔になってる」
 彼は口の両端を持ち吊り上げるようにしていった。それだと口裂け女だと笑う。彼も笑った。
 「私の町には活気がない。私が何かしようと何も変わらない。何か変えようと思って都会に出ようと思って止まったこの町には少なからず活気がある。私はその活気にあてられてしまった。」
 「じゃあ俺と同じだ」
 彼の境遇と私の境遇は違うだろう。
しかし、この町の駅で降りてこの旅館に辿り着きやはり感じるものがあったらしい。
 つまらない人生だった。退屈な田舎で気づけば周りに同世代はおらず、過去の栄光を語る老人が私は町に残るだろうと口説きに来る。
適当にやり過ごしているといつしか四半世紀を町から出ることなく過ごしてしまった。
何も感じることがなく何も得るものもなく時間だけが過ぎていった私の人生はここで転機を迎えた。
 目の前には初めて話の合う若い異性がいた。青年を見ていると、何かが燃え上がるような感覚を持つ。
昂った想いは交わり、自分の若さを実感させられた。身を重ね、事が済むと彼は階下へと戻っていった。
 熱くなるものがあった。肌は濡れており、目からは涙が零れ落ちていた。
鏡の前に立ち目を開くと、少し霞んだ視界には雪のように白い肌をした女性が立っていた。
照明はバチバチと音を立てて途端に消えた。スリートジャンプ、停電、雪国では珍しいことではない。月明かりが辺りを照らす。しかし、私の雪の様な肌はその光には照らされず、ただドロドロとした雪溶け水があたりに付着していた。

 翌日は快晴であった。私は朝一番の電車で早くも帰路に立っていた。
雪国育ちということを忘れでもしたのか雪溶けの道路で幾度も転び、昨晩同様に今度は膝から血を見ることになった。雪の壁はすでに水たまりになっており都会へ行くなら今日であろうと確信する。
 押し付けられた役割を果たすために躍起になっていたような気がする。

どうにもならない現実がある。どうにだってなってしまう日もある。
雪は溶けてたが今日も更ければまた雪が積もるらしい。
私の心は窓から見えるこの土地と同じで晴れたり雨でぬれたり、雪が積もったりする。
季節が過ぎればそれらは無くなるがその季節もまた巡ってくる。
しかし不毛で、実るものは何もない。現に私は結果から言ってしまえば何も得ずに、寧ろ何かを失うために旅に出たようなものだ。
壁があり、私はそこを乗り越えられず足踏みをした。
大地が私なら雪は枷だ。雪壁は私の心の壁だ。常夏の島に行くと今度は何が私の壁になるのだろうか、想像してみるとわくわくする。
あの駅員は私のみてくれだ。雪の壁を、私の憂鬱とした心を壊そうとしていた。しかし、すぐに投げ出した。
方法はあったろうに、しかし時間が解決してくれる。今度がそうだった。
そして、彼の人も同じように例えるとするなら私の欲望とでもいったところか。それとも鬱憤だろうか、疲労だろうか、ストレスと呼ばれるものだろうなあ。
これらが該当するならば失うという選択も正しかったとも言えるのか。
間にある町、あの向こうには都会がある。しかし雪国ではある。私の枷はいつ外れるのだろうか。自分に問いを投げてみる。自分からの問いだ。自分の答えを出そう。私は…、電車が汽笛を鳴らした。

 雪が溶けると春になるらしい。私の春はこれからである。次に旅行に出るときはもう少し遠くへ行こう。
今なら、これからの季節なら私はあの先へ必ず行ける。
雪の壁はもうそこにはない。